「わたしはダニエル・ブレイク」を観る前に
- 映画つぶやき
- 2017年12月10日
- 読了時間: 4分

久しぶりに映画を観たいなぁって
前にいくつか観たい映画をチェックしていたので、そのメモを探し出して、ピックアップ
そのうちの一つがこの「わたしは、ダニエル・ブレイク」です
《story》※公式サイトより引用
イギリス北東部ニューカッスルで大工として働く59歳のダニエル・ブレイクは、心臓の病を患い医者から仕事を止められる。国の援助を受けようとするが、複雑な制度が立ちふさがり必要な援助を受けることが出来ない。悪戦苦闘するダニエルだったが、シングルマザーのケイティと二人の子供の家族を助けたことから、交流が生まれる。貧しいなかでも、寄り添い合い絆を深めていくダニエルとケイティたち。しかし、厳しい現実が彼らを次第に追いつめていく。
この映画の舞台はイギリス。2010年以後のキャメロン政権下における財政緊縮政策及び社会保障制度改革の影響を受けた人々のお話です。
それがどのような影響を与えていたかを分かっておくために、ポイントとなるイギリスの社会背景をある程度理解しておくと映画がより面白くなるのではと思い書いてみます。
①イギリスにおける社会保障制度
社会福祉に携わる者であれば誰でも聞いたことのある政策があります。それが「ゆりかごから墓場まで」という、ベヴァリッジ報告を基礎とした第二次世界対戦後のイギリスにおける国民保険法の制定等、社会保障制度の幅広い強化政策で、これを機にイギリスは北欧諸国と同じく福祉国家の道を歩むことになりました。しかし、後に福祉政策の推進は「イギリス病」と呼ばれるほどの財政赤字をもたらし、1970年代以降、機能不全に陥り政策の転換を余儀なくされるまでになりました。
②医学モデルから社会モデルへ
イギリスで発展した障害学の理論で有名な「社会モデル」論がある。イギリスでは身体障害者の施設への収容に反対する障害者運動を発端に、1972年にUPIAS(隔離に反対する身体障害者連盟)が地域で暮らす権利を求め、障害者を排除する社会構造自体を問題と捉える考え方を提起した。これはいわゆる障害を作り出しているものは「社会」と捉える考え方で日本における障害者差別禁止法においても基礎理論となっている。
③障害者差別禁止法の制定
日本では「国連の障害者の権利に関する条約」の締結に向けて障害者に関わる様々な国内法が整備されるなか、2016年に「障害者差別解消法」が施行されましたが、イギリスでは1995年に雇用や公共サービスへのアクセスなどで障害者差別を禁止した「障害者差別禁止法(DDA)」が制定されました。2010年には障害のみならず、性適合、同性婚、人種、性別等を理由とする差別を禁止した平等法も制定されています。
これだけを見ると、イギリスは、さも福祉に対して理解のある国家だと思うかもしれませんが、①でも述べた様に福祉施策は財政課題との表裏の関係。併せて2007〜2008年に起きたサブプライムローン問題を発端とする世界金融危機が影響し、イギリスの福祉政策は過去最大の転換期を迎えます。
④キャメロン政権下
ここからは「Newsweek日本版(2016.5.24)−財政赤字を本気で削減するとこうなる、弱者切り捨ての凄まじさ−」の記事を参考にして書いています。
財政赤字削減を公約に掲げたキャメロン政権下において実行されたのは大幅な社会保障費の削減政策です。英デイリーミラー紙によると、英労働年金省は頭蓋骨の半分を失いながら重度の記憶障害、半身麻痺を抱える人に「就労可能」の判定を下した。他にも、公的支援を受けるための障害認定において、政府の労働能力評価では「片手に指が一本でもあれば就労可能」という裁定が下るように、それほどまでに厳しい基準だったそうです。
明からさまな給付費抑制政策下では貧困は拡大するばかり。そればかりか、住宅補助費その他給付費も対象者を削減する手法を取った。その結果、ついには国連障害者権利条約の定めるところにより、イギリスは「重大かつ組織的な侵害」があったとして、国連の調査を受ける世界初の国となったことはあまり知られていないと思います。
このような社会背景下のなか、2016年に公開された「わたしはダニエル・ブレイク」。上記の福祉施策の変遷も考慮しながらご覧になると、また一段と映画の面白さが増すのではないでしょうか😊
とりあえず、個人的にはとても考えさせられ、そして感動をした作品です。もしよければご覧になってください。でわでわ✨
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